Skogskyrkogården

世界遺産
アスプルンドの森の十字架

アスプルンドをめぐる旅 2

ひんやりと冷たいスウェーデンの夏の静かな朝。ストックホルムの中心から南へ5km。グリーンラインに乗って、スクーグスチルコゴーデン〈Skogskyrkogården〉駅へ向かいます。駅から続く菩提樹の並木のトンネルをくぐると、どうしてもこの目に焼きつけておきたかった、あの景色が見えてきます。
「北欧モダンの父」スウェーデンの巨匠、エリック・グンナール・アスプルンド〈Erik Gunnar Asplund〉が、生涯をかけて築いた世界遺産「森の墓地〈Skogskyrkogården〉」。
広大な針葉樹の森には、約10万もの墓石が木漏れ日を浴びてたたずんでいます。森の十字架に触れ、楡の木の丘に立つと、自然と建築が融け合う緑のランドスケープが広がっていました。

2013 Photo & Text_Scandinavian fika.

World heritage site
Skogskyrkogården

森の墓地、スクーグスチルコゴーデン

北欧デザインの旅でどうしても訪れたかった、巨匠たちの残した偉大な北欧建築。デンマークのアルネ・ヤコブセン、フィンランドのアルヴァ・アアルト。そして、ヤコブセンとアアルトに多大な影響を与え、若きの日のふたりのアイドルだった、スウェーデンの巨匠エリック・グンナール・アスプルンド〈Erik Gunnar Asplund〉。
ストックホルムを初めて訪れたとき、真っ先に向かったアスプルンドのストックホルム市立図書館〈Stockholms Stadsbibliotek〉。360度本に囲まれた、あの感動は一生忘れることはありません。2度目のストックホルムの旅では、前回訪れることができなかったもうひとつの傑作、スウェーデンの世界遺産「森の墓地」〈スクーグスチルコゴーデン/ Skogskyrkogården〉を見るために、朝早くホテルを飛び出しました。
地下鉄中央駅からグリーンラインに乗って南へ約15分。スクーグスチルコゴーデン〈Skogskyrkogården〉駅で下車。菩提樹の並木道をぬけて石垣の入口へたどり着くと、ふっと視界がひらけ、緑あふれるランドスケープが!まっすぐ伸びた石の小道の先には、あの巨大な十字架がたっていました。

▶ 「森の墓地」パンフレット〈日本語〉

瞑想の丘

20世紀を代表する傑作ランドスケープ「森の墓地」は、エリック・グンナール・アスプルンドとシーグルド・レーヴェレンツ〈Sigurd Lewerentz〉の二人の建築家によって設計されました。ストックホルム郊外にある「森の墓地」は、スウェーデンの中でも最大規模の埋葬地のひとつ。
「生・死・生」……生命循環のシンボルとしてつくられたという花崗岩の十字架。アスプルンド設計のこの巨大な十字架の近くには「森の火葬場」と3つの礼拝堂(「信仰の礼拝堂」「希望の礼拝堂」「聖十字架の礼拝堂」)があります。
「森の火葬場」の西側には楡(ニレ)の木の茂る丘が。広大な針葉樹の森と「復活の礼拝堂」を見下ろせる高台は、レーヴェレンツ設計の「瞑想の丘」。
アスプルンドの十字架と、レーヴェレンツの冥想の丘のあいだには、ふたつを鏡のように映す小さな泉があります。花崗岩の十字架に触れた時の、ひんやりとした清らかな感触。冥想の丘に立ち、森を見渡した時の、静寂と神秘的な景観。
不思議なのは、この墓地には、あたたかさが潜んでいるということ。
生きた森につつまれているということ。
自然と建築が美しく融け合い、あの泉のように「生」から「死」、「死」から「生」を映し出しているのです。

北欧モダンの父、アスプルンド

1885年にストックホルムに生まれたエリック・グンナール・アスプルンドは、少年時代に描いていた画家の夢を諦め、建築を学びます。 1914年、「自然の森を生かした墓地」の国際コンペに取りかかったのが、アスプルンドとレーヴェレンツがまだ28歳の頃。私設学校クララ・スクール時代からの友人だったふたりが手を組み、コンペに勝利した「広大な自然の地形を生かした、緑あふれるランドスケープ」は、25年の歳月を経て1940年に完成しました。 完成からまもなく、アスプルンドは55歳の若さで死去。「森の墓地」はまさに、アスプルンドが生涯をかけて築いた建築遺産だったのです。

亡きアスプルンドへ、盟友アアルトも言葉を送っています。
「彼こそがモダン建築の真のパイオニアであり、先導者だった。私は彼と出会い、並のスケールでは測れない建築があると悟った。アスプルンドの全作品には、人間を含む自然との触れあいが常にはっきりとあらわれている」

1994年、「森の墓地〈スクーグスチルコゴーデン〉」はユネスコの世界遺産に登録されました。「北欧モダンの父」と呼ばれ、北欧の近代建築の礎を築いたアスプルンドは、自らが設計した森の墓地に今も安らかに眠っています。

森の礼拝堂

「森の火葬場」から松林を抜けて奥へと進むと、深い森の中にあらわれる三角屋根の小さな礼拝堂。1920年に「森の墓地」の敷地内にいちばん最初に完成した「森の礼拝堂〈Skogskapellet〉」はアスプルンドが設計したもの。1918年の夏、新婚旅行で訪れたデンマークのリーセルンドで見た、草葺屋根のあずまやに深い感銘を受け、「森の礼拝堂」がデザインされたのだそうです。
「森の礼拝堂」からさらに東へ歩くと、4つのピラミッドのような、緑のとんがり帽子のビジターセンター〈Visitors Center〉があります。もともとは1923年完成の「松林のパビリオン」という墓地管理職員用の建物。現在はインフォメーションセンター、カフェ、展示会場として利用されています。 夏の間は、英語とスウェーデン語のガイドツアーがあり、森の墓地と5つの礼拝堂を見学できます。

レーヴェレンツの復活の礼拝堂

1925年に完成した、シーグルド・レーヴェレンツ設計の「復活の礼拝堂〈Uppståndelsekapellet〉」。アスプルンドの設計した木立にひそむ「森の礼拝堂」とはまったく異なった個性の、古代の神殿を思わせる建築。礼拝堂には古典風神殿建築様式を取り入れているのだとか。

死者は森へ還る

「瞑想の丘」から「復活の礼拝堂」を結ぶ「七井戸の小道〈Sju brunnars stig〉」は、針葉樹の原生林を切り開いてくつられた小道。静かな森の中を歩む一本道は888メートルあり、「復活の礼拝堂」で別れの儀式を行う人びとが死者を弔い、悲しみを癒すことができるようにとの思いが込められています。この道のりは、最後のお別れを告げるための大切な距離。

102ヘクタールの広大な森の中には、約10万の墓が点在し、低い墓石が整然と並んでいます。けれど、スクーグスチルコゴーデンの中心は墓石ではなく、「森」なのです。墓に添えられた花も、花瓶でなく、土に植えられています。
『死者は森へ還る』という死生観を持つスウェーデン人にとって、森は「故郷」であり、安らぎの場所なのです。
静寂と木漏れ日の中にたたずむ墓石さえも美しく、森のぬくみにつつまれているよう。

Skogskyrkogården

Stockholm|Sweden

森の墓地

アクセス
ストックホルム地下鉄中央駅〈T-Centralen〉から
グリーンラインに乗って約15分。
〈Skogskyrkogården〉駅で下車。

skogskyrkogarden.stockholm.se

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