Myyrmäen kirkko

ユハ・レイヴィスカの光
ミュールマキ教会

ヘルシンキ中央駅からVR〈近郊列車〉Mラインに乗って、北のヴァンター〈Vantaa〉へ。ロウヘラ〈Louhela〉駅で降りてすぐ、白樺の林の奥にその教会はあります。
フィンランドで最も美しい「光」の教会、ミュールマキ教会〈Myyrmäen kirkko〉。
現代のフィンランドを代表する建築家、ユハ・レイヴィスカ〈Juha Leiviskä〉がミュールマキ教会に照らした光は、陽光と光を奏でる楽器によって創られています。

神秘的で、あまりにも美しい光。
ユハ・レイヴィスカ、光の旅 ───

2015 Photo & Text_Scandinavian fika.

Myyrmäen kirkko

ユハ・レイヴィスカと光の旅

フィンランドが恋しくなって、日が短くなる冬が来るたびにひらく本があります。ヘルシンキのグッド・シェパード教会〈Hyvan Paimenen kirkko〉が表紙を飾る美しい写真集、小泉隆さんの『フィンランド光の旅 北欧建築探訪』
天から降り注ぐ陽の光と、光の結晶のようなペンダントライトの明かり。アルヴァ・アアルト〈Alvar Aalto〉の後継者ともいわれる現代のフィンランドを代表する建築家、ユハ・レイヴィスカ〈Juha Leiviskä〉との出会いはそこから始まったのです。
日照時間の少ない、暗く長い冬を過ごすフィンランド人にとって、光はもっとも尊いもの。
ユハ・レイヴィスカが「陽光」と名付けたもうひとつの教会、ミュールマキ教会をどうしてもこの目に焼きつけたくて、ヘルシンキ郊外へと旅に出ます。
ユハ・レイヴィスカの光射す方へ。

Juha Leiviska|Myyrmäen kirkko

光の教会、ミュールマキ

フィンランドで最も美しい光の教会と称えられる、ユハ・レイヴィスカの代表作、ミュールマキ教会〈Myyrmäen kirkko〉。
1984年に完成したミュールマキ教会の神秘的な光は、天窓と壁のスリットから木漏れ日のように差し込む自然光と、真っ白な壁に反射するやわらかな光によって生まれています。
息をのむほどに美しい、光の景色。シェードを何枚も重ねたペンダントライトのきらめきは、天から舞い降りた天使のよう。
空へのびる白樺のような柱。ふわりと浮かび上がるクリスティーナ・ニュルヒネン〈Kristiina Nyrhinen〉の大きなタペストリー。白い十字架の祭壇には、正午近くになると光のシャワーが降り注ぐといいます。
陽光が刻々と、時間や季節と共に角度を変えるたび、教会を照らす光は美しく形を変え、その色を変え、神秘的な世界を映し出します。

よみがえるのは、ユハ・レイヴィスカの言葉。
「光は、空間に生命の息吹を与えます」

光を奏でる楽器

「光と音楽の建築家」とうたわれた、ユハ・レイヴィスカ。音楽家でもあり、ピアニストでもあったユハ・レイヴィスカは「建築と音楽は、最も密接な関係にある芸術」だと語ります。
「建築も音楽も、人間の存在する次元や感覚と呼応し、我々の理解を超えた無限の宇宙を経験できる空間。その連続する空間の重なりを創りだす芸術なのです」
ユハ・レイヴィスカ自らがデザインした「浮遊する照明」は、シェードを何枚も重ねることで光が反射し合い、特別な輝きを放っています。「インテリアは、光を奏でる楽器」という彼の言葉から、浮遊する照明は、時に光の音符のようにも見えてきます。
ピアノの旋律で空間を創り上げてゆくというユハ・レイヴィスカ。その建築には、生命の光と同じように、まばゆい音楽が流れているのです。まるで、あの大きなパイプオルガンをユハ・レイヴィスカ自身が奏でているかのよう。

白樺の林

ヘルシンキ中央駅から、近郊列車に乗ってやってきたヴァンター市のロウヘラ〈Louhela〉。ロウヘラの駅を出るとすぐに、白とベージュの縦長のフォルムの建物と、教会の鐘が見えてきます。白樺の林に中にひっそりと佇むミュールマキ教会。内部の空間からは想像できないような外観で、白樺の木々ように垂直なスリットと窓が印象的。この窓から斜光が差し込むと、礼拝堂に光の帯が浮かび上がります。
夏よりも冬の雪景色の方が、ミュールマキ教会のフォルムの美しさが際立ちます。白樺と建築が重なるように、溶け合って見えるのです。

感じるままに

ミュールマキ教会を訪れたのは雨の日でした。しとしとと小雨が降る中、教会のエントランスに足を踏み入れると、窓辺にはアアルトが椅子が並んでいました。奥からスタッフの声が聞こえてくるだけで、自分ひとり。他には誰もいません。
ミュールマキ教会のパンフレットを手にとって、そっと奥にすすむと、何度も写真で見たあの美しい礼拝堂が広がっていました。祭壇にこぼれる陽の光と、ペンダントライトの輝き。礼拝堂をつつむ真っ白な光の中、夢中になってカメラのシャッターを切りました。
でも、たとえ何枚撮っても、どんなに綺麗に写しても、あの美しさと光は、写真にはおさまりきならいもの。感じたまま、この目に焼きつけるしかありません。

Mラインで行こう

ミュールマキ教会へは、ヘルシンキ中央駅からVR(近郊列車)のMラインに乗って約20分。ミュールマキ〈Myyrmäki〉駅の次のロウヘラ〈Louhela〉駅で降りてすぐです。はじめてのフィンランド旅行でも行きやすい場所ですが、ヘルシンキの市内観光はほぼトラムなので、列車に乗るだけでもやっぱりちょっとドキドキします。
ミュールマキ教会はヘルシンキ市内ではなく、ヘルシンキ空港があるヴァンター〈Vantaa〉市にあります。ヘルシンキ観光ではトラム、地下鉄、バスが乗り放題になるデイチケットを買ってまわっていましたが、近郊列車に乗るためには中央駅でチケットを購入しましょう。
ヘルシンキ中央駅からロウヘラ〈Louhela〉駅までは約20分。ライムグリーンとホワイトのVRの列車に乗って出かけましょう。

【追記】ミュールマキ教会、2019年より改装工事

ミュールマキ教会は2019年3月より大規模な改装工事に入っています。改装期間は約2年間とのこと。改装期間中は移転し、ミュールマキ〈Myyrmäki〉駅から徒歩5分のミュールマキ ヴィルタ 教会〈Myyrmäen Virtakirkko〉が新しくひらかれています。ビルの中につくられたミュールマキ ヴィルタ 教会は、ユハ・レイヴィスカがデザインしたミュールマキ教会とは、また雰囲気が違う教会だそうです。

Myyrmäen kirkko

Vantaa|Finland

ミュールマキ教会

アクセス
ヘルシンキ中央駅から
VR(近郊列車)Mラインに乗って
北西へ約20分。
ロウヘラ〈Louhela〉駅で下車。

Myyrmäen kirkko
www.vantaanseurakunnat.fi


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