Dala-Floda Värdshus

民芸あふれる100年の宿
ダーラフローダ・ヴェーズヒュース

ダーラフローダの旅3 - 後編 -

スウェーデン人の"心のふるさと"、ダーラナ〈Dalarna〉の小さな村、ダーラフローダ〈Dala-Floda〉。白樺の森につつまれた美しい湖の畔に、この地で代々守られてきた古い民芸館のような宿があります。100年以上もの歴史を持つダーラフローダ・ヴェーズヒュース〈Dala-Floda Värdshus〉は、スウェーデンで初めてエコロジカル認定を受けたホテルでもあり、オーガニック食材をつかった最高の料理を食べに、夏にはたくさんの人びとがフローダを訪れます。
「ダーラフローダ編」最後の旅は、スウェーデンの民芸あふれる100年の宿の中をめぐります。 エヴァロッタさんの美しい庭と、ペールさんのおいしい料理。ここでは、ダーラフローダの伝統と暮らしを今に伝える、オーナーご夫妻との素晴らしい出逢いが待っていました。

2013, 2019 Photo & Text_Scandinavian fika.


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Dala-Floda 3
Dala-Floda Värdshus

Dala-Floda Värdshus

”Varmt välkomna till Dala-Floda Värdshus!
Ett trevligt och genuint värdshus, över 100 år gammalt, som serverar ekologisk mat. Vi tror att vårt värdshus påminner om en japansk ryokan. Det är alltid trevligt att träffa japanska gäster.
Välkomna till Dalarna!
─── Evalotta och Per Ersson”


ダーラフローダ・ヴェーズヒュースへようこそ!
100年の歴史がある宿でオーガニックのお食事を楽しむことができます。日本の「旅館」に近い感じなのかしら。日本からのゲストにお越しいただけるのは、とても嬉しいです。
ダーラナへようこそ!
─── エヴァロッタとペールより

ダーラフローダ・ヴェーズヒュース

ダーラナの小さな村、ダーラフローダ〈Dala-Floda〉。村を流れる穏やかなヴェステルダール川と同じくらい美しい湖のほとりに、隠れ家のような古い宿があります。 2010年に創業100周年を迎えた歴史あるこの宿は Värdshus(ヴェーズヒュース)と呼ばれ、その地域に昔からある家屋を利用して宿泊施設にしたゲストハウスなのだそうです。ダーラフローダへの旅を決めたのは、この民芸あふれる100年宿、ダーラフローダ・ヴェーズヒュース〈Dala-Floda Värdshus〉を訪れたかったから。
手工芸店フローダ・ヘムスロイド〈Floda hemslöjd〉から Flosjön 湖へ向かって少し歩くと、「ÖPPET(OPEN)」と書かれた黄色い柄の向こうに、サマーハウスのようなダーラフローダ・ヴェーズヒュースが見えてきます。 宿のすぐ裏手には白樺の森が広がり、その森をうつす湖がきらめいています。100年前から変わらないであろう、フローダの湖畔の景色。
100年の月日が経とうとも、変わらないものがここにはあるのです。

(※日本で ダーラフローダ・ヴェーズヒュース〈Dala-Floda Värdshus〉が紹介されている本では、「ヴァーズヒュース」や「ヴァードフース」とカタカナ表記されています。スウェーデン語を日本語にするのはとても難しいのですが、フローダの人たちの発音が「ヴァ」よりも「ヴェ」に近かったので、ここでは「ヴェーズヒュース」でご紹介させていただきます)

絵本の中の1ページのように描かれた、ダーラフローダ・ヴェーズヒュース

暮らしの中に民芸を

ダーラフローダ・ヴェーズヒュースの敷地には、りんごの花が香る美しい庭園が広がっています。草原から猫がぴょんと顔を出し、スーッと母屋の影に隠れたので、後に続くように緑のアーチをくぐり、スウェーデンブルーの宿の扉をノック。100年宿の小さな扉がひらくと、オーナーでありシェフのペールさんが「よく来たね!」と私をあたたかく出迎えてくれました。
最初にペールさんから笑顔で渡されたのは、童話に出てくるような大きな7番の部屋の鍵。離れにある客室までペールさんに案内してもらいます。
古いウッドテーブルとチェアが並ぶ素敵なダイニングを通って、母屋と離れを結ぶ廊下へ。通路には長〜いスウェーデンの裂き織りマット「トラースマッタ」が敷かれていてます。ミントグリーンの可愛い窓枠と、やわらかな日をいっぱいに浴びる観葉植物。壁にはフローダ織りのタペストリーや絵画が飾られ、白樺のカゴや薪が入ったへぎ板のバスケット、ダーラナ地方特有の花模様クールビッツが描かれた古い戸棚など貴重な民芸品がたくさん!入口から客室に向かうだけなのに、こんなにも素晴らしいアンティークに出会えるだなんて!
まるで民芸博物館のような、ダーラフローダ・ヴェーズヒュース。ここは、暮らしの中で民芸を感じることができる特別な宿なのです。

エヴァロッタの庭園

自然につつまれたフローダの湖畔の宿には、ダイニングレストランのある母屋と、ダーラナのテルベリ〈Tällberg〉で建てられた古いお屋敷を移築した客室。そして、2家族だけで泊まれるサマーハウスのような客室の3棟がコの字のように並んで建っています。どの棟の窓からも眺めることができる美しい中庭。大きな柳の木の下には小さなテーブルもあって、庭の木陰で朝食や夕食、ワインを楽しむこともできます。
庭の手入れをしているのは、オーナーご夫婦のマダム、エヴァロッタさん。木々や花だけでなく、料理で使うオーガニックのハーブなどもここで育てています。
庭の草取りをしていたエヴァロッタさんが、日本からひとりでやってきた私を見つけるなり、とびきりの笑顔で「ようこそ、フローダへ!」と歓迎してくれました。もう宿に泊まりに来たという感じではなく、フローダ村にホームステイに来た感じ。エヴァロッタさんは『長くつ下のピッピ』が大人になったような可愛い人。

「この地方の自然と、今も残る古い民家の生活文化を楽しんでほしい」と語る、エヴァロッタさんとペールさん。日本にも1度訪れたことがあるというオーナーご夫婦は、京都で見た日本庭園に感銘を受けたそうです。
ダーラフローダ・ヴェーズヒュースの中庭は、とても自然。隅々まで手が行き届いている庭だけれど、そういうことさえも忘れてしまう。昔から、ただそこにある景色のように、ありのままの美しさが宿っているのです。

No.7 - Svenska rum

スウェーデンルーム

ダーラフローダ・ヴェーズヒュースには17の客室があり、1つとして同じ部屋はありません。各部屋にはそれぞれテーマがあって、世界のいろいろなカルチャーからインスピレーションを得て内装が施されています。
「スウェーデンを感じられる部屋」をリクエストした私は、7番の「スウェーデンルーム」(ダブルルーム)に宿泊しました。古いスウェーデンのベッドをそのまま使ったお部屋で、白を基調としたデザインと、スウェーデンらしい葉っぱのテキスタイルのソファチェアが素敵でした。小さなバルコニーもあって、のどかな中庭を眺めることもできます。
今回は宿泊することができなかったのですが、クールビッツの花模様が描かれたドアと、何百年も前に作られたスウェーデンの2段ベットがある1番の「フローダ」(4人部屋)がおすすめ!ダーラナの文化に包み込まれるような宿泊を体験できます。
他にも湖を見下ろせる「ブルールーム」や、「アフリカ」「イタリア」「詩人の部屋」「王子の部屋」など、かわいい名前のついた個性豊かなお部屋がいろいろ。

No.14 - Prinsens rum

思ひ出のダーラヘスト

旅行記の中では、写真といっしょに楽しかったエピソードを紹介していますが、慣れない海外旅行と時差ボケから体調を崩してしまった日もあります。ストックホルムからダーラフローダに向かった日が本当に体がきつくて、ダーラフローダの宿に着いて部屋に入ったとたん、緊張の糸がふっと切れて、ベットにバタンと倒れてしまいました。
外は小雨が降りはじめたので、ペールさんに夕方まで少し眠ることと、何かビタミン補給になる果物やジュースがほしいと伝えました。そのあと、りんごとバナナと一緒に持ってきてくれた自家製ブルーベリージュースと白いちじくのドライフィグがもう最高においしかった!食べて、眠ったら、すっかり元気になりました!

目が覚めると空は明るく晴れていて、部屋の窓辺に飾られたダーラヘストが小さな幸運を運んできてくれたようでした。
雨上がりの空の光が、ダーラヘストのやさしいフォルムを浮かび上がらせています。大きい馬や小さい馬。赤や青や黒の、家族のような馬。よく見ると、色がはげていたり、耳がかけていたり……そこがまた、たまらなく愛らしい。
きっと、ダーラナの地で親から子へと代々受け継がれてきたもの。この宿でずっと昔から、世界中の旅人の疲れを癒してきたことでしょう。

アートとともに

フローダの宿に訪れたら、ダーラナ地方の民芸品を見つけながら、壁の絵画やアートパネルにも目を向けてほしい。
ガーデンテラスに飾られた、歴史あるヴェーズヒュースの宿の絵は絵本の1ページのように描かれていて素敵でした。スウェーデンルームには、フローダ村の若者のロマンスを描いた絵画や肖像画が飾られていました。画家もテーマも違うさまざまなアートが、宿のいろんな場所にギャラリーのように飾られています。
特に印象的だったのは、ダイニングやカンファレンスルームに飾られた油絵のアートパネル。 これは、1957年にウプサラに生まれた女性画家、GUDRUN Rabenius の作品で、彼女はエヴァロッタさんとペールさんの友人でもあるそうです。水のようにも、森のようにも、石のようにも、炎のようにも見える GUDRUN のモダンアートは、フローダの古い宿の歴史と今をつなぐ素晴らしいアクセントとなっています。
(このページの)一番上の写真は、ダイニングでエヴァロッタさんがお客さんと語らいながらワインのコルクを抜いているところ。GUDRUN のモダンアートが夜のキャンドルの灯りであたたかさを放ち、とてもロマンティック。この宿のインテリアコーディネートも手がけるエヴァロッタさんのセンスに惚れ惚れします。

花のシャンデリア

夕食の時間になると、ダーラフローダ・ヴェーズヒュースの母屋にある食堂から美味しそうな匂いが漂ってきます。スウェーデンの田舎のホームパーティーに招かれたようなダイニングへ入ると、ベージュのリネンのエプロンをきりりとしめたエヴァロッタさんが窓辺の特等席へ案内してくれました。ウッドテーブルのリネンクロスの上には、長いロウソク立てと、庭に咲いていたワスレナグサが飾られていました。
食堂の床はスウェーデンの伝統的な床貼り「ヘリンボーン」。ニシンの骨のように並んだ無垢材の上には、いろんな色糸が混じった裂き織りマットのトラースマッタが敷かれていました。アンティークの水色の食器棚と、同じ水色の椅子が並んだ大テーブル。天井には植物の葉が絵筆で描かれていて、ドライフラワーを輪で結んで吊るした、花のシャンデリアが素敵でした。

キャンドルの火のかすかな揺らめきが、胸の奥を穏やかにします。この優雅なひとときが体中に染みわたるよう。
どんな料理が出てくるのかわくわくしながら、まずは大好きなスウェーデンの乾燥パン、クネッケ〈knäckebröd〉に美味しいバターをつけていただきます!

おいしく、美しく

スウェーデンで初めてエコロジカル認定を受けたダーラフローダ・ヴェーズヒュース。有機野菜と最高の食材を使った地産地消の家庭料理は、国内のグルメガイドでも紹介されるほど絶品!この宿に訪れるお客さんのいちばんの楽しみは、なんといってもペールさんのつくるオーガニック料理と美味しいワインなのです! 新鮮な有機野菜はヴォルステッズ〈Wålstedts〉の農園から仕入れているのだとか。メニューは手に入る食材によって毎日変わります。

この日のディナーは4品のコースメニューを注文。前菜は、小エビのクレープ包みにロイロム〈Kalix Löjrom〉というシロマスの卵を添えたもの。サワークリームと紫たまねぎと合わせて食べたら最高に美味しかった!
メインディッシュは、色鮮やかな夏野菜のグリルと贅沢なステーキ。すごくやわらかくて美味しいお肉でしたが、牛肉ともなんか違う。あとになって、あれはもしかしたらムース(ヘラジカ)だったかもしれない!と思いました。3皿目は牛やヤギのチーズの盛り合わせ。食後に自家製チョコレートケーキのデザート(3皿目のチーズで、すでにお腹いっぱいでした)わたしはワイン飲めないのですが、ワインがお好きな方ならもっと食事を楽しめるはず!
感動的だったのが、ペールさんの作る料理をエヴァロッタさんがひとつひとつ丁寧に説明してくれて、笑顔で語りかけ、食事を楽しませてくれたこと(ほとんど英語がしゃべれないのに、なぜか通じ合えた)。そこには、遠い日本からひとりでやってきた旅人への心遣いと、やさしさがあふれていました。

ダーラナの自然の恵みを召し上がれ。人と自然とおいしいものが、あなたを幸せにします。心と体を内からきれいにします。
おいしく、美しく。いつも、そうありますように。

ほんとうの FIKA

ダーラフローダを訪れたのは2013年6月初旬。初夏というよりも、スウェーデンに春が訪れた頃のことです。のどかで美しいダーラフローダと、この民芸あふれる素晴らしい宿を日本のみなさんに紹介したくて、フローダを旅の終着点に、約1年間、スウェーデンをめぐる北欧旅行記を書き続けました。

ダーラフローダ・ヴェーズヒュースで出逢った、エヴァロッタさんとペールさんご夫婦のことは、生涯忘れることはありません。自然体のお二人が、わたしに接してくれたやさしさ。美しい庭と、おいしい料理。そして、ダーラナの伝統と文化を守りながら、自分たちの”今”を楽しむこと。新しいものをとらえる広い心と感性を持つこと。なにより、スウェーデンとダーラフローダを愛すること。
たった1泊2日のフローダの旅でしたが、本当に言葉ではいいあらわせないくらい多くのものを感じることができたのです。

お二人に日本から持ってきたおみやげを渡して、お別れをいったあと、バスを待つまでの少し間、もう一度庭に出てみることにしました。
満開のりんごの木の下で、これから夏のあいだに咲く花を想像してみました。
すると、奥からペールさんの声がして「コーヒーでも飲まないか?」と誘ってくれました。
「クッキーもあるわよ」とエヴァロッタさん。
わたしが「フィーカ?」と尋ねたら、
「そう、これが FIKA だよ」と笑顔で答えてくれました。

ダーラフローダの歴史と緑につつまれた、生まれて初めてのほんとうの FIKA。
このひとときは美しいまま、わたしの心に深く焼きついています。


Evalotta och Per Ersson,
Tack så mycket!!

Per and Evalotta|2019

再会

【追記】
2019年の夏至の日、6年ぶりにダーラフローダ・ヴェーズヒュースを訪れ、エヴァロッタさんとペールさんに再会しました!6年前よりもずっと若返って見えたお二人の変わらない やさしさと笑顔に、胸が熱くなりました。
「あなたがフローダに来てから、たくさんの日本人ゲストがヴェーズヒュースにやって来たのよ」と話してくれたエヴァロッタさん。
6年のあいだに、たくさんの方が北欧フィーカの旅行記を読んでくださって、日本からはるばるフローダの宿を訪れてくれたそうです。
ダーラフローダを旅してくださった みなさま、心からありがとう。
ひとり旅をして、日記を書いて、こんなにも嬉しかったことはありません。わたしにとって、ダーラフローダの素晴らしさをわかちあえたことが、何にもかえがたい喜びです。
Tack så mycket!!

Dala-Floda Värdshus

Dala-Floda, Dalarna|Sweden

ダーラフローダ・ヴェーズヒュース

アクセス
ストックホルム中央駅から SJの特急列車で
北西へ約2時間半。
ボーレンゲ〈Borlänge〉駅で下車。
駅から252番バスで西へ約40分。
スーパーのバス停〈Dala-floda ICA〉で下車。
バス停から徒歩8分。

www.dalafloda-vardshus.se

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