Stig Lindberg meets
Lisa Larson

リンドベリの器と
リサ・ラーソンの猫

グスタフスベリの旅 - 後編 -

ストックホルムから東へ20km。スルッセン〈Slussen〉から赤いバスに乗って見えてきたのは、ヨットハーバーと古いレンガの建物が並ぶ小さな港町、グスタフスベリ〈Gustavsberg〉
北欧ミッドセンチュリーを代表する陶器ブランドとしてグススタフベリの黄金期を支えたアーティスト、スティグ・リンドベリ〈Stig Lindberg〉の代表作ベルサ〈Berså〉
リンドベリに見出され、グススタフベリの工房で小さな動物たちのフィギュアをつくりはじめた若き日のリサ・ラーソン〈Lisa Larson〉

リンドベリの葉っぱと、リサ・ラーソンの猫のひみつ。

2013 Photo & Text_Scandinavian fika.


← 前編へもどる

Gustavsberg 2

リンドベリの器

1916年、スウェーデン北部の地方都市ウオメで生まれたスティグ・リンドベリ〈Stig Lindberg〉は、小さい頃から絵を描くことに夢中だったといいます。1937年にグスタフスベリに入社すると、1949年にヴィルヘルム・コーゲの後を継いでアートディレクターに就任。北欧ミッドセンチュリーを代表するブランドとなったグスタフスベリ〈Gustavsberg〉の黄金期を支え、戦後のスウェーデンにおいて、もっとも人気のある陶芸作家の一人として活躍したリンドベリ。その個性的でモダンなデザインは、今もなお、まばゆいばかりの輝きを放っています。
大きなリーフを描いた彼の代表作ベルサ〈Berså〉や、「柳の葉」をデザインしたサリックス〈SALIX〉。フリーハンドで描かれたファイアンス〈Fajans〉の優美でアーティスティックな装飾にうっとり。リンドベリの器には楽しさと、美しさと、遊び心があって、愛にあふれています。それは、リンドベリの器に出会ったものだけがわかる、ほんものの輝きなのです。
今はリンドベリの器はひとつも持っていないけれど、いつか、ショコラカラーのスティックのラインが入ったスピサ・リブ〈SPISA RIBB〉のカップでコーヒーを飲むのが夢です。

Stig Lindberg|SPISA RIBB
Stig Lindberg|SALIX
Stig Lindberg|Prunus
Stig Lindberg|Fajans

リンドベリとリサ・ラーソンの出逢い

アストリッド・リンドグレーン〈Astrid Lindgren〉のお話に出てくる、絵に描いたような田舎で育ったというリサ・ラーソン〈Lisa Larson〉。1931年にスウェーデン南部のスモーランドで生まれたリサは、小さな頃からペンナイフで木を削って人形をつくっていたそうです。まさか木の彫刻が、陶芸家としての人生を決めてしまうなんて思いもしなかったはず。
ファッションイラストレーターに憧れたリサは、西海岸のヨーテボリの大学に進学するため、作品の一つである木の彫刻を送りました。結果は見事合格。でも、どういうわけか大学では陶芸クラスに配属されてしまったのです。運命とは不思議なもので、陶器工房に入った時の匂いと、初めて触った土の感触に、「陶芸家になる」と心に決めたリサ。彼女はヨーテボリで、最愛の夫となるグンナルとの運命の出逢いも果たします。まだ学生だったふたりは1952年に結婚。その頃、画家のグンナルが描いた初々しいリサの肖像画は、今もふたりの家のリビングに飾られています。
大学卒業が間近になったある日、北欧の美術大学の公募展でリサの作品を見た審査員から招待状が届きました。
「いっしょにグスタフスベリのアトリエで働かないか」
……そう、その手紙を送ったのは、当時グスタフスベリのアートディレクターとして活躍していた、あのスティグ・リンドベリだったのです。

Stig Lindberg and Lisa Larson
©︎Lisa Larson design.se
Lisa and her cats 1959
©︎Lisa Larson design.se

リサ・ラーソンの猫

1954年にリンドベリに誘われてグスタフベリに入社したリサ・ラーソン。最初の1年間は、リサは3人の若手アーティストたちとアトリエをシェアして、何の課題もなく、好きなものを作っていればよかったそうです。その頃にリサが作ったのが、大好きな「猫」のフィギュア。たまたまそれを見たリンドベリが「これに合うように他の動物も作ってみなさい」といってはじまったのが、リサの最初のシリーズ「小さな動物園〈Lilla Zoo〉」。動物をモチーフにしたリサのフィギュアは数多くあるけれど、「小さな動物園」こそ、彼女の原点ともいえる作品。
リサと夫グンナルのために、リンドベリが自宅のとなりの家を提供してくれたというくらい、プライベートでも親しかった二人。リサはリンドベリへの感謝を忘れず、「本当に彼は寛大で、若い人たちにチャンスを与え、信頼してくれる貴重な人だった」と語っています。
スウェーデンを代表する人気陶芸家となったリサ・ラーソンは、フリーランスを経て、またグスタフベリの工房に戻ってきました。
リサの変わらない魅力と愛らしさは、彼女のつくるセラミックそのものにあらわれています。
「昔からフィギュアといえば白い磁気ばかりで高尚なイメージだったけど、私が求めていたのは、もっと素朴で、飾り気のない雰囲気。粗めで鉄分を多く含んだ土。柔らかい赤や黒みを帯びた茶色……」
「Lilla Zoo」の猫がリサの作品の中でいちばん好きなのは、リンドベリが見出した、若きリサ・ラーソンの原点がつまっているから。

ベルサは「葉っぱ」ではない!?

「陶器の町」グスタフスベリのあちこちで見かける、みどりの葉っぱのデザイン。1960年にスティグ・リンドベリが発表したベルサ〈Berså〉シリーズは、スウェーデンのことをまだよく知らないころから、北欧テーブルウェアのアイコンのような存在でした。日本でも大人気のベルサを求めて、グスタフスベリやロッピス(蚤の市)を訪れる人も多いはず。
でも、実はベルサ〈Berså〉って「葉っぱ」のことではないって知ってました? 初めて知った時はちょっと驚きました。だって、ウェブやカタログの紹介文では「葉っぱを意味するベルサ」と書かれているのですから!
教えてくれたのは、Fukuya〈フクヤ〉のオーナー・三田陽子さん。北欧ヴィンテージショップを営むFukuyaさんは、北欧の器を取り扱うだけでなく、北欧の歴史や北欧デザインが生まれた背景を、ブログでとても丁寧につづられています。北欧について、Fukuyaさんに教えてもらったことがどれほどたくさんあることか!
なので私は〈Berså〉について、Fukuyaさんの言葉を信じます。

「〈Berså〉は日本語にしづらい言葉ですが、発音は「ベショウ」に近いです。〈Berså〉とは、家の庭などで緑にかこまれた休憩所をさします。冬が長い北欧で、緑があふれる季節に光を楽しむ習慣が生んだ言葉なのでしょう。だから、葉っぱの柄なのだと思います。あえて訳すとすれば、『木陰の休息所』でしょうか」

Stig Lindberg|Berså

Gustavsberg

Gustavsberg|Sweden

グスタフスベリ

アクセス
スルッセン〈Slussen〉駅から
474番の赤いバスに乗って約30分。
〈Farstaviken〉駅で下車。

GUSTAVSBERGS PORSLINSFABRIK
gustavsbergsporslinsfabrik.se

グスタフスベリ陶磁器博物館
gustavsbergsporslinsmuseum.se

Dala-Floda 1

ダーラナの小さな村、
ダーラフローダを訪ねて
- 前編 -

ダーラナ・ダーラフローダの旅 1


NEXT STORY

RELATED STORIES